インタビュー
「社員が会社を作る」という意識が見直し成功の鍵 配偶者手当見直しなどで社員のモチベーションアップ
本事業が開始する前より、配偶者手当の見直しに取り組んだ先進企業様へインタビューを行いました。
<企業プロフィール>
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事業内容
食品包装資材の製造・販売業
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従業員数
242名
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創業
92年
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拠点
東京本社のほか、東北、甲信越、
関西、九州 -
インタビュー対象
代表取締役社長
本事例の3つのポイント
- 「現在の給与制度は平等性が欠けている」という女性社員の声をきっかけに制度全体の見直しへ
- 複数回にわたり説明会を実施し、社員の合意形成を得た上で見直しを実行
- 制度見直しを通して業務工数削減、モチベーションアップ、社員の当事者意識の醸成に繋がった
女性社員の声が制度改正への原動力に
配偶者手当を見直すことになったきっかけを教えてください。
当社では女性の活躍推進を方針に掲げていることもあって、以前から「配偶者手当」制度には疑問を感じていました。
「働き控え」を助長する配偶者手当制度は時代に合っていないのでは、と思っていたのです。
また、関連する当社の「扶養家族手当」制度は対象範囲が非常に幅広くて、どこまでが支給対象でどこから支給対象ではないのかが曖昧でした。これによって、労務を担当する総務部の業務が煩雑化しているという問題を内包していたのです。
こうした理由から「配偶者手当」「扶養家族手当」制度をどうにか撤廃できないかと考えており、手当の見直しを提案しました。
「配偶者手当」制度は専業主婦の家庭がスタンダードだった高度成長期の時代に作られたもので、現代の国の方針や人口動向にそぐわないと訴えかけましたが、「働きたくても働けない人もいる」「家庭の事情がある」という社内からの反論が強く、この時は採決に至りませんでした。
以前から「配偶者手当」制度のあり方を変えたいと考えていたのですね。
そこからどのような経緯で制度見直しを実現したのですか。
当社には、全従業員が自由に意見を発信し、会社へ提案できる制度があります。これまでもたくさん、業務課題に気づくきっかけや、それに対するアイデア、福利厚生、会社の方針が社員の声から生まれてきました。「配偶者手当」制度を見直すことになったのも、女性社員から出された「住宅手当」制度を見直したいという提案からでした。
彼女たちの訴えは、「仕事において世帯主か非世帯主かは関係ないのに、現行制度では世帯主の社員だけに住宅手当が支給されている。これはおかしいのではないか」というもの。全くその通りだと思いましたし、私個人としては自分たちが疑問を持ったことに対してきちんと発言すれば会社は動くのだということを経験させたいという思いもあり、諸手を挙げて賛成の意見でした。
ところが、そんな矢先に世の中がコロナ禍に突入しました。本社の社員が在宅勤務に切り替わったため、通勤手当は定期代ではなく実費支給に変更することになりました。その結果、総務部の業務がさらに煩雑化してしまいました。そこで、社労士やプロの方にも相談し、かねてより提案のあった「住宅手当の世帯主条項の撤廃」と「通勤手当」を一つにまとめ、「エリア手当」制度として一律支給することにしました。
もちろんメリット・デメリット・矛盾が生じるのでどういうデメリットがでるのか試算したりしました。こうした大規模な制度改正を行う中で、関連する「配偶者手当」制度も今一度見直そうという社員の声が高まり、総務メンバーの協力を得ながら制度見直しの実現に漕ぎ着けたという次第です。
「説得」ではなく「対話」を意識
女性社員による提案で実際に会社が変わったことが、「配偶者手当」制度の見直しにもつながったのですね。
制度改革の際、社内からの反応や意見はいかがでしたか。
大多数が賛成の意見でした。「以前から家庭内でも悩みの種になっていたので、奥さんの就業調整がなくなって良かった」という声もありましたね。
その一方で、反対意見もゼロではありませんでしたが、「配偶者手当」制度は個人の価値観や考え方、ご家庭の事情なども絡み合うため、一人の漏れもなく全社員に納得してもらわなくてはと考えました。
そのため、まずはオンラインで全社員に向けて制度改正の説明会を開催しました。労働人口の減少といった社会問題や当社の理念、「なぜやるのか」ということを具体的に伝えた上で、改正に対して納得できたかどうかを一人ひとりに回答してもらいました。
納得できなかった社員には、その後も数回にわたって説明会や個別面談を実施しました。
どのような反対意見があったのでしょうか。また、その対応も教えてください。
配偶者手当を支給していた対象者は、職責の高い人がほとんどでした。この人たちにとっては手当がなくなるため不利益変更にあたるというのが主な反対理由です。
そこで配偶者手当を廃止し、全社員を対象に一律金額でのベースアップを行いました。元々、会社としてベースアップを行いたいとも考えていましたから。これでほとんどの社員が納得してくれましたが、一方でお金の問題ではない部分で反対していた社員は納得してくれませんでした。
たとえばある社員は、「自分は帰宅が遅くなることもあるので、奥さんが子どもを見ていないといけない。働きたくても働けないのに、働かないかのように言われるのが心外だ」という訴えでした。こうした反対の声に対しては、その価値観や考え方を尊重しつつ、「説得」ではなく「対話」を心がけながら何度も話し合いをしたものです。
配偶者手当に直接関係のない日頃の仕事に対する不満や育児の苦労話を聞きつつ、私の想いや社会の変化まで深く会話することで、お互いの気持ちを理解し合えたように思っています。
最終的には全社員から承認を得た上で、改正を行うことができました。
会社が与えるのではなく自分たちの意見で制度を変える「当事者意識」が大事
一連の手当制度の改正で、どのような変化がありましたか。
総務・経理部にとっては、住宅手当や通勤手当がなくなったことで「扶養人数は何人か」「世帯主かどうか」「通勤手段は何か」「通勤経路に正当性があるか」といった細かなことを一つひとつ事実確認する必要がなくなり、業務負担が大幅に削減できているようです。
他の社員にとっても、交通費の申請、在宅勤務の申告などの事務作業がなくなり煩わしさが一掃されたという声が届いています。事前に繰り返し説明会や面談を行っていたのが功を奏して、いざ改正した時には反発などは起こりませんでしたね。
また、手当制度の改正を提案した3人にとっては、声をあげることで実際に会社は変わるのだということが分かり、モチベーションや自己肯定感が上がったと話してくれました。
これから「配偶者手当」制度の見直しを行おうとしている企業にアドバイスをお願いします。
私は「一丸になって」だとか、「一枚岩で」とかいう言葉があまり好きではないんですよね。
よく「スイミー」という絵本の話をするのですが、この話が伝えるように、一見大群で泳いでいても一人ひとりが自主的に泳げることが大切だと考えています。それぞれの価値観を大切にしながらも同じ方向に向かっていけたら素敵ですし、会社としても常に成長できると思うのです。
それには、日頃から社員のモチベーションアップが不可欠だと思っています。
当社では、利益を社員へ明瞭に還元することや、自由に意見を発言できる環境を作ることで、会社から「与えてもらう」のではなく自分たちで「作る」という風土と文化を育ててきました。
私たち民間企業が女性活躍の促進に向けて、少しずつでも改革していくには、前例のないことにも積極的に挑戦していくことが必要だと考えています。
当社でも、社労士の方に相談した時に、制度改正の方針について当初はあまり推奨されませんでした。けれども、社員からの好意的なフィードバックを受ける度に、制度改正をして良かったと心から思っています。
また、経営者である私が主体となって変えようとしていた時はうまくいかなかったことが、社員が原動力となった時には大きな推進力が生まれたこともポイントですね。
まさに、社員が会社を作っていくという意識を持つことが、変革成功につながるのだと実感することができました。
これから制度見直しを目指す企業様も、ぜひ経営陣だけではなく社員の声にも耳を傾けながら、前例にとらわれずに取り組んでみてはいかがでしょうか。