インタビュー

従業員の声に真正面から向き合い、より魅力あふれる会社に 従業員を何よりも大切にしたいという想いが原動力

「年収の壁」対策支援奨励金の取組として、制度見直しを行った企業様にお話をお伺いしました。

<企業プロフィール>

  • 事業内容

    内外装・設備工事及び清掃事業

  • 従業員数

    18名

  • 創業

    6年

  • インタビュー対象

    取締役

本事例の3つのポイント

  • 労働基準法改正に伴う制度の見直しで、疑問の声があがったことをきっかけに、配偶者手当を見直しへ
  • 「妻が収入を気にせず働けるようになった」など肯定的な意見に手応えを実感
  • 現場の声を汲み取ることが成功の鍵

従業員からの声がきっかけで配偶者手当の見直しへ

配偶者手当を見直すことになったきっかけを教えてください。

2023年4月に労働基準法の改正が行われた際に、就労規則や労働条件通知書などを一通り見直しました。その中で昨今の物価高騰を鑑みて、従業員の収入をアップしたいという気持ちがあったため、賃金や手当、雇用形態も含めて一つひとつの項目を確認。毎月1回実施している従業員との1対1での面談を通じて、自身の希望や制度に対する考え方などのヒアリングを重ねながら進めていました。「配偶者手当」に注目したのは、その際にあがった従業員の声がきっかけです。

「子どもが小さいうちは配偶者が専業主婦だったとしても、小学校や中学校に入学するタイミングで社会復帰したいという家庭もあるかもしれない。その時に、収入要件を意識しなければならないのは、足枷になるのではないか」という意見に、当時反対する人は誰もいませんでした。また、当社にも女性パート従業員がおりますので、「就労調整」や「働き控え」という社会問題を肌で実感していたこともあって、配偶者手当における収入要件の撤廃を本格的に検討することに。直接的な対象者ではないものの、パート従業員からは「配偶者手当に収入要件なんていらないのではないか。そもそもなぜ配偶者手当だけ、奥さんの収入に制限を設ける必要があるの?」という率直な意見もいただき、その通りだと痛感しました。

労働集約型である弊社にとって、ヒューマンリソースについては常に課題であると感じています。そんな中で、ご縁があって一緒に働いている皆様はお金に代えられない大切な存在であると思っていますので、従業員の声を第一にしたい、という思いが見直しへ取り組んだ一番の理由です。

すると、偶然にもそのタイミングで、東京しごと財団のメルマガを通してこの奨励金事業のことを知りました。これが後押しとなり、ここから一気に見直しに向けて取り組むことになりました。

従業員の声がきっかけだったのですね。奨励金の申し込みはスムーズに行えましたか?

提出書類がシンプルなのと、わかりやすい記入例があったので比較的簡単に必要書類を準備できました。「東京しごと財団」の担当の方よりきめ細やかなフォローをしていただいたので、頭を抱えるようなことは一切なくスムーズに申し込みを完了できました。書類の不備や間違いなどもチェックしてくださったので、終始安心して取り組めましたね。そのため、大変だったことなども特にありません。

強いてあげるなら、収入要件撤廃により会社としては労務費が増えることになるため、収益などを含む試算は入念に行いました。その結果、充分に会社の利益でカバーできると判断し、改正を実行した次第です。

従業員のエンゲージメント向上を図りつつ会社の魅力向上にも期待

会社としての費用負担が増えることについて、経営陣から反対意見はありませんでしたか?

経営陣の共通認識として、会社としての負担が増えたとしても従業員を大切にしたいという想いがあるので、反対意見は全くなかったですね。

収入要件が撤廃されたので、配偶者がいる方は配偶者の収入に関係なく全員に手当が支給されるようになり、公平性が高まったと言えます。これからも各種手当の拡充や給与のベースアップなどを積極的に行っていく方針です。
私自身も、子育てをしている期間に会社の手当などに救われた一人なので、これからの若い世代の方々にも、できることはどんどん実施していきたいですね。

従業員からの反応や組織の変化はいかがでしたか。

従業員からは総じて前向きな反応が返ってきました。

具体的には、「妻が収入を気にせず働けるようになった」「将来のライフプランを自由に設計できるようになった」といったコメントをいただいているので、「やってよかったな」と心から思っています。労働力の減少が避けられない日本社会においては、離職防止のためにも給与以外に収入アップにつながる制度を整えておく必要があると考えています。

今回の改正により「会社の魅力向上」という面でも期待しており、現時点では具体的な数字は出ていませんが、将来的には離職率の低下にもつながるのではないでしょうか。

今後も積極的に様々な制度拡充に取り組む方針

今後の取り組みや目指す方向性を教えてください。

当社は、多様な人材が活躍する組織を目指しています。今回は配偶者手当における収入要件の撤廃に留まりましたが、いずれはそれ以外の制度見直しにも取り組んでいきたいと考えています。

例えば、事実婚や同性婚の場合でも従業員と相談のうえ手当支給対象とする制度や、配偶者手当だけではなく、家族手当の金額についての見直し、また配偶者や子どもがいない従業員の処遇改善にも取り組んでいきたいと考えています。

また、並行して働き方についても変革を進めています。直近で取り組んだ内容としては、コアタイムなしのフレックスタイム制を導入しました。今後もさらなる労働時間の短縮を目指して、業務効率化など、どうすれば実現できるかを現場の従業員たちにヒアリングを進めながら日々模索しているところです。

これから「配偶者手当」の見直しを行おうとしている企業にメッセージをお願いします。

「年収の壁」「共働き世帯の増加」「労働力減少」といったキーワードが注目を集めている昨今の潮流にあっては、あらゆる企業において配偶者手当のあり方を見直す必要があると思います。2025年度には、いわゆる「103万の壁」も引上げになることが予定されていますので、どちらにせよ就業規則を修正する必要が出てきます。そんな今こそ、配偶者手当を見直すチャンスではないでしょうか。タイミング的にも見直しに取り組みやすいですし、我々中小企業にとっては奨励金10万円も支給されるというメリットもあったため、配偶者手当の見直しに対する決断を先行して行うことができました。

その上で最も参考になるのは従業員の意見。会社の規模などによってはなかなか難しいかもしれませんが、従業員一人ひとりの考えを知るためにもじっくり従業員にヒアリングを行うことは有用です。また、聞くだけではなく会社が向かっている方針を日頃からしっかり伝えることで、大概のことは上手くいくと考えています。

現代ではいろいろなコミュニケーションツールがありますが、個人的にはやはりフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを重要視しています。膝を突き合わせて相手の表情や声音を感じながら現場の真の声を汲み取ることが、成功の鍵だと思っています。